絹谷幸二氏

奈良国立大学機構アドバイザー 絹谷 幸二氏が「画家としてのオリジナリティ」と題し講演(12月21日)

 奈良国立大学機構では、教育・研究、国際交流、地域連携・産学連携、芸術文化などに関し、法人や大学の運営に資する助言を得るために、12名からなるアドバイザリーボードを設置し、それぞれの高い見識をもとに講演や助言を提供いただく取り組みを行っています。
 今回、アドバイザーを務める著名画家、東京藝術大学名誉教授絹谷幸二氏をお招きし、12月21日に講演会を開きました。先生は、奈良生まれ、奈良教育大学附属小・中学校のご出身で、アフレスコ(壁画技法)など多彩な技法を駆使した独自の画風で知られ、令和3年に文化勲章を受章されています。
 講演では、絵を描く面白さに気付かせてくれた小学1年での西岡先生との出会い、絵描きでは生活が成り立たないとの周囲の心配を気にせず画家を志した経緯、東京藝大入学直後に小磯良平先生から「絵はうまくなっちゃいけない」との助言をもらったことなどを披露されました。卒業後に留学したイタリアでは、フレスコ技法を学びながらも、先達の作品の模写を通じた日本式の学びでなく、最初から自分の独自の作品を描き続け、先人の枠を越え、個性を発揮する力を付けることの大切さを学んだこと、帰国後、片岡球子さんや小倉遊亀さんなどの先達との交わりを通じ、画家として、人としての生き方を学び、自身の成長に活かしてきたことを語られました。また、自分の求める色を出すには、多くの異なる絵具を混ぜ、特に、相反する色を加えることで初めて深みのある色が生まれること、料理の隠し味とも同様、相反する概念は対立せず、補完し合うもので、維摩経の教えにも通じるなど、ユニークな視点を述べられました。模倣に頼ると先人から脱皮できなくなること、試行錯誤を重ねた先に自分のオリジナルの技法が編みだされること、そうした創造の過程にこそ絵を描く面白さがあるということが参加者に力強く伝えられました。
 続いて、学生や教職員と対話の機会があり、「大阪の天空美術館で、画伯の絵画作品に加え、VRなどの試みにも接して大いに刺激を受けた」、「相反するものを混ぜてオリジナリティを生み出すとの考えは、絵画に留まらず、他分野にもヒントになるので活用したい」などの感想が述べられました。今回は、絵画の世界の豊かさに接する機会に加え、高い独創性が求められる芸術家の生き方から、学術や研究の世界での独自性を考える機会にもなり、有意義な会合となりました。

講演する絹谷 幸二氏