
プロフィール
- 氏名(ふりがな)
- 榊󠄀 裕之(さかき ひろゆき)
- 生年月日
- 昭和19年10月6日生
- 学位
- 工学博士
- 専門分野
- 半導体電子工学(電子の量子的な制御と素子応用)
ご挨拶
- 小さな大学の大きな志と可能性 ―奈良国立大学機構と傘下の二大学がめざすもの―
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人口が日本の数分の一以下のオランダやスイスやスウェーデンは、国の規模を弱みとせず、独自のビジョンや国際的連携などを活かし、学術文化、経済、外交などで優れた存在感を示しています。企業や大学の真価も、構成員数や財務規模ではなく、社員や教職員や学生などの活動の質の高さと独自性によって決まります。例えば、カリフォルニア工科大学は、教員数は三百名程ですが、千名超の大学院生を擁し、世界屈指の大学の地位を占めています。
奈良教育大学と奈良女子大学は、永い伝統を持つ師範学校と女子高等師範学校を礎に、1949年に新制大学として生まれ変わり、独自の教育と研究を続けてきましたが、2022年に法人格を統合し、奈良国立大学機構の傘下の二大学として新たな歩みを始めました。二大学は、教員数が約百名と二百名の小規模組織ですが、双方の教職員と学生が、互いの良さと違いを学び、支え合うことで、夫々の魅力と特色をさらに強め、学外関係者との連携も活かすことで、卓越した人材の育成と研究活動を推進するべく一層の努力が求められています。
さて、地球規模の温暖化や疫病蔓延、政治・経済の蹉跌に伴う国際的緊張や難民問題など、人類は多くの困難な課題に直面し、各国の政府・組織体・個人は、総合的見地からの賢明な対応が求められています。幸いなことに、奈良教育大学と奈良女子大学は、小規模ながら人文・社会科学系から、自然科学・工学技術の分野までを網羅する総合大学の機能を備えています。この特色を活かせば、学生たちは専門性を深めるだけでなく、分野の壁を越えて学び、広さと深さを備えた総合的知性を養うことができ、これにより、二大学は、時代を拓く教員人材や社会を先導する女性リーダー人材を育てる使命を果たすことができます。また、総合知を備えた教員と学生たちが、相互に啓発し、研究と創造の営みを一段と高めることで、学術と社会の新たな可能性を拓き、地域と世界の未来のために貢献したいものです。
他方、千年を超す歴史の中で築かれてきた奈良の地で大学生活を過ごせることは、世界的にも稀有な幸運です。素晴らしい寺社や仏像、生活文化や自然環境などに親しむとともに、聖徳太子や鑑真和上の時代から、国際的交流が日本の文化や学術を如何に豊かにしてきたかを認識し、21世紀の世界を生きていく上でのヒントにして欲しいと願っています。
また、師範学校と女子高等師範学校を前身とする両学は、教職員と学生が学びや教育の本質について、その考えを深めるのに絶好の場所です。岡潔先生の教育論なども参考に、教育のあるべき姿を探索し、未来の女子教育のあり方も含め、学びや教育の質向上に努めたいと思います。
本法人と傘下の2大学は、奈良地域で教育・研究・文化活動を進めている大学・高等工業専門学校・博物館・考古学研究所など7組織との協力を強めるために、連携組織「奈良カレッジズ」を発足させました。当初、これらの組織による連携を軸としますが、続いて、奈良県や奈良市に加え、近隣企業との連携と協創に向けたプラットフォームも誕生させており、奈良が学びと研究とイノベーションの国際センターとなるよう一層の努力を行う所存です。
最後に、両学とそれに連なる組織に関わる全ての皆さまには、本機構および関連する組織に対して暖かいご理解と支援を賜りますよう心からお願いいたします。 - 国立大学法人 奈良国立大学機構 理事長 榊󠄀 裕之
略歴
昭和43年 3月 | 東京大学 工学部電気工学科卒業 |
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昭和48年 3月 | 同大学 大学院工学系研究科電子工学専攻 博士課程修了 |
昭和48年 4月 | 同大学 生産技術研究所 助教授 |
昭和51年 3月 | IBMワトソン研究所客員研究員(同52年9月まで) |
昭和62年 6月 | 東京大学 生産技術研究所 教授 |
昭和63年 4月 | 同大学 先端科学技術研究センター教授 |
昭和63年 4月 | 同大学 生産技術研究所 教授を併任(10年間) |
平成10年 4月 | 同大学 生産技術研究所 教授(専任) |
平成19年 3月 | 同大学 生産技術研究所 教授を定年退職。同年6月に名誉教授 |
平成19年 4月 | 豊田工業大学 副学長・教授 |
平成22年 9月 | 豊田工業大学 学長(令和元年まで9年間) |
令和元年10月 | 豊田工業大学 名誉教授(現在に至る) |
令和元年12月 | 日本学士院 会員(現在に至る) |
令和 3年 6月 | 豊田工業大学 名誉学長, 学校法人トヨタ学園 フェロー(現在に至る) |
令和 4年 4月 | 奈良国立大学機構 理事長(現在に至る) |
主な受賞歴
昭和49年 5月 | 電子情報通信学会業績賞 |
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平成 元年12月 | 日本IBM科学賞 |
同 2年10月 | 服部報公賞 |
同 3年 5月 | 電子情報通信学会業績賞 |
同 7年 2月 | 島津賞 |
同 8年12月 | IEEE D. Sarnoff Award |
同 12年 6月 | 藤原賞 |
同 13年11月 | 紫綬褒章 |
同 14年10月 | the Welker Award |
同 14年 5月 | 電気学会業績賞 |
同 16年 7月 | 江崎玲於奈賞 |
同 17年 6月 | 日本学士院賞 |
平成20年11月 | 文化功労者 |
令和 4年11月 | 文化勲章 |
主な研究業績
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電子工学分野において、半導体の極めて薄い膜や極微の細線や箱構造に電子を閉じ込めると、電子が量子力学的な波として振る舞うことに早くから着目し、半導体集積回路の中核部品であるMOSトランジスタの伝導層において電子の量子的波動性を明らかにするとともに、量子閉じ込め効果を制御すれば、新たな機能や優れた特性を持つ一連の素子の実現に応用できることを先駆的に示し、電子工学の新たな学術領域を拓いた。
特に、1980年頃に始めた量子細線や量子ドット(箱)構造素子に関する先駆的研究は、半導体技術の著しい進展と相まって世界的に研究が活発化し大きな発展を見せた。また、70年代にIBMワトソン研究所で客員として行った超薄膜の膜面に沿う電子伝導の研究は、内外の研究者に引き継がれ、超高速トランジスタの誕生を誘発し、大容量通信の発展に貢献した。なお、1982年、量子細線や量子ドットのレーザへの応用を提案したが、後に、光検出器などにも広く活用できることを示した。これらの研究活動を通じ、物質科学、固体物理学、電子工学の最前線が重なりあう新学術分野を拓くとともに、優れた若手研究者を輩出し、半導体ナノ構造における電子の量子的制御とそのエレクトロニクスへの応用の発展に寄与した。